衣食住という言葉は、誰がこの順番でならべたのか知りませんが、私のデザインの仕事に密接な関係をもっています。
私が京都から東京の武蔵野美術大学の建築へすすんだのは今から40年近く前、ちょうどDCブランドに火がつきはじめたころで、京都から大都会東京へでてきた田舎者は、ファッションの洗礼をうけました。卒業してインテリアデザインの世界で働きはじめたころは、ブティックデザインの花盛りでした。そのファッションを享受した人たちは、カフェやバーへ遊び場をもとめます。こうしてブティックデザインのテクニックが駆使されて、食の場のデザインは発展しました。
私が京都へもどり、デザインをはじめたのは、それから10年後、今から30年前です。
まだ京都にはさほどオシャレな空間は少ない時でした。しかし、ファッションに目覚めた人たちは遊び場を求めていました。そこで京都の仲間でオシャレ居酒屋をつくったのです。
知る人ぞ知る、伝説の「うふふ」です。
それはまさしく、衣から食へ私のデザインが移った時代でした。
それから20年が過ぎ、今は住の仕事へ移り、短期の居住空間の豊かさを求める、宿泊施設の仕事がふえています。住宅の仕事は以前より手がけていますが、衣・食と個性的な世界を抜けてきた人たちの居住空間は、ホテルや旅館のデザイン体験を経て、また違った方向へと進むことでしょう。衣・食・住という文字の順番で、デザインが空間に重要な役目をもつようになったことは、なにも私の仕事だけでなく時代の流れだとおもいますが、日本人が流行ではなく、豊かな生活文化をもつために必要なプロセスだとおもっています。
杉木 源三