前回の「うふふ」がOPENした後、町中には新しいお店があちこちに出来始めました。そんな時、知り合いのお店で働いていた人が独立するというので、お店造りのお手伝いの依頼をいただきました。
その建物は御池の高倉にある町家でした。施主はその家で生まれ育った方で、目立つお店をして、近隣の迷惑になりたくないというお気持ちだったので、外観はそのまま変えずに、夜に営業される時だけのれんと行灯を出すことになりました。その分、内部は一度スケルトンにして、亜鉛鉄板とナラ材のテーブル、収納、玄昌石タイルのほぼ三つの要素で構成し、全て改装しました。亜鉛鉄板の壁の中に、造形作家の麻谷宏さんの作品を埋め込みました。
麻谷さんには額縁に入れたアートではなく、インテリアにとけ込んだオブジェを、とお願いしただけで、出来上がってきた時、竹の上に和紙を貼り、その上から鉛筆でドローイングのオブジェ、それが亜鉛の素材感とぴったりと合って、おどろきとともに感動したことを今も覚えております。
このお店が、僕がデザインした第一号の町家のお店です。当時はこのような町家の改造に賛否両論がありましたが、その後、町家のお店も増えるにつれ、町家保存のひとつの手法となりえた事はいうまでもありません。今は少し改造を加えられたので、当初の面影はありませんが、今も亀甲屋の看板をあげて営業を続けていてくださることは、本当にうれしいことです。
杉木源三
壁面アート:麻谷宏